知識をつける11分で読めます

要求と要件は違う|PRDの書き方と、AIに渡すときの作法

「予約できるサイトが欲しい」は要求であって要件ではありません。混同すると必ず作り直しになります。要求の掘り方、PRDで抜けると困る項目、AIに下書きさせる指示までまとめました。

「予約できるサイトが欲しい」。これは要求です。要件ではありません。この2つを混同したまま作り始めると、必ず作り直しになります。 この記事では、要求と要件の違い、そしてPRD(要件定義書)の書き方を、AIで自分でも作れる時代に合わせて整理します。

まず結論

要求は「誰が、なぜ、何に困っているか」。要件は「そのために何を作るか」です。

要求(Requirement)要件(Specification)
誰が言うもの顧客・利用者・事業側作る側が定義する
「予約の電話対応で手が止まる」「Webから日時を選んで予約を確定できる」
変わりやすさ変わりにくい変わりやすい
間違えたときの損失大きい。作り直しになる小さい。直せばよい

要求を確かめずに要件から始めると、正しく作られた間違ったものができます。

要求を掘る:なぜなぜではなく「いつ・何回」

要求を掘るとき、「なぜ?」を繰り返す方法が知られていますが、慣れないと誘導になりがちです。もっと確実なのは、事実を聞くことです。

  1. 1

    いつ起きたか

    「最後にその問題が起きたのはいつですか?」思い出せないなら、頻度が低い証拠です。

  2. 2

    何回起きるか

    「週に何回くらいですか?」数えられない問題は、優先度が低いことが多いです。

  3. 3

    今どうしているか

    「今はどう対処していますか?」代替手段があるなら、その不便さが価値の上限になります。

  4. 4

    いくら払っているか

    「その対処に、時間やお金をどれくらい使っていますか?」ここが価格の根拠になります。

意見ではなく事実を聞くと、要求が具体的になります。

「あったら便利ですか?」は聞かないでください。 ほぼ全員が「便利ですね」と答えます。判断材料になりません。

要求を1文にする

掘った内容を、次の形に落とします。埋まらない項目があるなら、まだ聞き足りていません。

【誰が】予約の電話対応をしている個人サロンのオーナーが
【いつ】施術中に電話が鳴ったとき
【何に困っている】手を止めて対応するため、施術の質が落ちる
【今どうしている】留守番電話にして、後でかけ直している
【その代償】1日30分のかけ直し作業と、取りこぼしが週2件

この形にすると、要件が自動的に決まってきます。 上の例なら、必要なのは「施術中でも予約が入る仕組み」であって、売上分析でも顧客管理でもありません。

PRDに書くこと

PRD(Product Requirements Document)は、作るものを定義する文書です。形式は自由ですが、次の項目が抜けると必ず後で困ります。

項目書くこと抜けるとどうなるか
背景誰の、どんな問題か途中で「そもそも何のため」が迷子になる
成功の定義何がどうなれば成功か完成の判断ができない
対象外今回やらないこと際限なく機能が増える
利用者の流れ使う人が何をするか(画面単位)実装時に解釈がぶれる
扱うデータ何を保存するか後から作り直しになる
制約期限・予算・法令実現不能な設計になる

「対象外」を必ず書く

PRDでいちばん効くのが、この項目です。

## 対象外(今回は作らない)

・スマホアプリ版(Webのみ)
・複数店舗の管理(1店舗のみ)
・売上の分析機能
・キャンセル待ちの自動繰り上げ
・クレジットカード決済(現地払いのみ)

書いておかないと、必ず「これも入れられる?」が積み上がります。先に書いてあれば、「今回は対象外です」と一言で返せます。

「扱うデータ」を書く重要性

これは見落とされがちですが、後戻りが最も大きい項目です。

## 扱うデータ

予約
・予約者名(必須)
・電話番号(必須)
・希望日時(必須)
・人数(必須)
・備考(任意)
・キャンセル済みかどうか

保存期間: 施術日から1年
個人情報: 含む(氏名・電話番号)

最後の2行を必ず書いてください。 個人情報を含むかどうかで、必要な安全対策が変わります。ここを書いておけば、作る段階で「本人のデータしか見せない」設定を忘れません。

理由はAIでアプリができた!でも、そのまま公開して大丈夫?に詳しく書きました。

優先順位のつけ方

機能が多すぎるときは、**MoSCoW(モスクワ)**という整理が使えます。

区分意味判断基準
Mustこれがないと成立しないなければリリースしない
Shouldあるべきだが、なくても出せる次のリリースでもよい
Couldあれば嬉しい余裕があれば
Won't今回はやらない対象外に書く

MustはPRD全体の2〜3割に収めてください。 半分以上がMustになっている場合、要求の絞り込みができていません。

もう1つ有効なのが、**「これがなくても、確かめたいことは確かめられるか?」**という問いです。答えが「確かめられる」なら、それはMustではありません。

PRDをAIに書かせるときの指示

ここからが、これまでと違う部分です。PRDの下書きはAIに作らせて、判断だけ自分でやるほうが速くなりました。

新規事業のPRDを書きたいです。下書きを作ってください。

わかっていること:
【誰が】(対象者)
【いつ】(問題が起きる場面)
【何に困っている】(具体的に)
【今どうしている】(代替手段)
【その代償】(時間やお金)

次の項目で書いてください。
・背景
・成功の定義(数値で測れる形にしてください)
・対象外(今回作らないこと)
・利用者の流れ(画面単位で)
・扱うデータ(項目名・必須かどうか・個人情報を含むか・保存期間)
・制約

わからない部分は、推測で埋めずに「要確認」と書いてください。

最後の一文が重要です。 これがないと、それらしい内容で埋められてしまい、確認すべき箇所が見えなくなります。

PRDから、そのまま試作品を作る

PRDができたら、それを渡して試作品を作らせられます。ここが、これまでと決定的に違う点です。

このPRDをもとに、検証用の試作品を作ってください。
本番で使うものではなく、10人に触ってもらうためのものです。

(PRDを貼り付け)

条件:
・「利用者の流れ」の中心となる1本だけを実装してください
・対象外に書いたものは作らないでください
・データの保存は Supabase、公開は Vercel で、無料の範囲でお願いします
・扱うデータに個人情報が含まれるので、
  Supabase の RLS で、本人のデータしか見えないようにしてください

PRDが具体的なほど、出てくるものの精度が上がります。 逆に言えば、曖昧なPRDは、AIを使っても曖昧なものにしかなりません。

PRDの質は、AI時代にむしろ上がった

これまでPRDは、エンジニアに渡すための文書でした。曖昧でも、対話で埋められました。

今は、PRDがそのまま入力になります。 曖昧なまま渡すと、曖昧なものが出てきます。しかも速く出てくるので、間違いに気づくのが遅れます。

自分とAIでできることが多い

  • 自分や友達だけで使うツール
  • 学校や会社の中だけで使うツール
  • アイデアを試すための試作品
  • 利用者が少ない小さなサービス

専門家の知識が重要になる

  • 他人の個人情報を預かる
  • お金のやりとりをする
  • 利用者が一気に増えたとき
  • 動かなくなったときの復旧
「作れる」と「公開していい」は別の話です。ここの線引きがわかることが大事です。

PRDを書く力の重要性は、下がるどころか上がっています。

よくある質問

Q. PRDはどれくらいの分量が適切ですか? A. A4で2〜3枚が目安です。それ以上になるなら、対象範囲が広すぎます。

Q. 要求が固まらないうちに作り始めてもいいですか? A. 試作品なら構いません。 むしろ作って見せたほうが、要求が明確になることがあります。ただし本番は、要求が固まってからです。

Q. 成功の定義は、どう書けばいいですか? A. 数えられる形にしてください。 「使いやすくなる」ではなく「かけ直し作業が1日30分から5分になる」のように書きます。

Q. エンジニアにPRDだけ渡すのと、試作品も渡すのはどちらがよいですか? A. 両方渡すのがいちばん伝わります。 進め方はプロトタイプまで作って、あとはエンジニアに渡すにまとめました。

Q. 対象外を書くと、機会損失になりませんか? A. なりません。**対象外は「永久にやらない」ではなく「今回はやらない」**です。次のリリースで入れれば済みます。

まとめ

  • 要求は「誰が、なぜ、何に困っているか」。要件は「何を作るか」
  • 要求は意見ではなく**事実(いつ・何回・今どうしている・代償)**で掘る
  • PRDで抜けると困るのは、対象外扱うデータ
  • 優先順位はMoSCoW。Mustは全体の2〜3割に収める
  • PRDの下書きはAIに書かせ、**「わからない部分は要確認と書いて」**を必ず入れる
  • 曖昧なPRDからは、曖昧なものしか出てこない。 PRDの重要性はむしろ上がった

あわせて読みたい